これからの日本の経済を支えるにはインバウンド市場は重要。集客を増やしていくためにはインバウンド市場に参入すべき。といった声を事業者の方であれば、一度は耳にした方も多いのではないでしょうか。
しかし、いざインバウンド市場に参入をするとなると何をしたら良いのか、市場規模はどの程度のものなのかといった予備的な知識が必須となってきます。
本記事ではこれからインバウンド市場に本格的に参入していこうとされている方に向けて、インバウンド集客の重要性や、実際に行われている集客施策についてご紹介をいたします。
インバウンド集客とは
まず初めに、「インバウンド集客」とは一体何を指すのかについて解説をいたします。
インバウンド集客と一口に言ってその意味は幅広く多岐にわたります。例えば地方自治体が、自分たちの街に外国人が訪れてもらえるように、地名や観光地をPRするのもインバウンド集客の一つです。
またレストラン、ホテル、観光施設などを営む事業者の方が広告やSNSを活用し、自分たちの施設に外国人が訪れてもらえるように施策を行うのもインバウンド集客の一つです。
このように「インバウンド集客」はいろいろなシーンで利用ができる便利な言葉ですが、海外から日本に来てもらう外国人を集める施策としてまずは覚えておいてください。
訪日外国人に向けて集客をおこなう
日本では、2007年1月1日に施行された観光立国推進基本法をもとに訪日外国人の集客に力を入れ、国の経済の柱として様々な取り組みを行ってきました。
集客のために、国や自治体が主導となり航空路線の拡充や外国語の看板設置などのインフラ整備にも尽力。航空路線においては、2019年の夏ダイヤで日本と世界を結ぶ定期国際航空路線が645本まで拡大をしていました。
※参考資料:2019年夏ダイヤ 国際定期便(直行便)データ
また2016年3月には国土交通省が主体となって策定をした、「明日の日本を支える観光ビジョン」において訪日外国人観光客数を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人を目標に設定。
新型コロナウイルスの流行により惜しくも目標には届かなかったものの、2019年には過去最高の3,119万人にまで到達をしました。
このように過去の経緯からも訪日マーケットは日本の経済を支える重要な位置づけにあることがわかります。新型コロナウイルスの流行が落ち着いてきた2023年以降は、より活発にマーケットの成長が見込まれると推測されています。
2022年訪日外国人観光客の推移
2022年 月別訪日外国人観光客数
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
17,766 | 16,719 | 66,121 | 139,548 | 147,046 | 120,430 | 144,578 | 169,902 | 206,641 | 498,646 | 934,500 | 1,370,000 |
※出典:日本政府観光局(JNTO)国籍/月別 訪日外客数(2003年~2022年)
次に、2022年の最新の訪日外国人観光客の推移について解説をいたします。
新型コロナウイルスの影響が色濃く残った2022年は、1年間で合計3,831,900人の外国人観光客が日本へ訪れました。
1月から9月までは低調な推移となっていましたが、10月に行われた入国に関する手続きの緩和や1日あたりの入国者数の制限解除に伴い、11月以降は顕著な伸びを示しています。
一方で11月以降は回復の兆しを見せたものの、年間を通してみてみると2019年度対比では12.0%の推移と低い水準となっているため、2023年以降の本格的な早期回復が期待されています。
国別に見てみると、入国や出国に関する規制緩和の早かった韓国や台湾、アメリカからの旅行者が顕著な増加を見せています。
一方で、新型コロナウイルス流行前に訪日客数のNo1を占めていた中国からの旅行者については、中国政府が実施していた規制の影響により2019年対比で1.9%の189,000人に留まっています。
2023年も訪日外国人観光客は増加傾向
2023年1月26日にJTBから発表された最新の予測によると、2023年の訪日外国人観光客数は各国での入国規制緩和や航空路線の復活により、2,110万人(対前年比550.6%、対2019年比66.2%)を見込んでいます。
特に、日本近隣のアジア諸国から急速な回復を見せており今年は韓国、タイ、シンガポールからの旅行者が増える予測となっています。
一方で、中国からの旅行者に関しては1月12日午前0時より始まった一時的な水際対策強化のため、今後の見通しが立っていない状況です。
また日本国内においては、2022年のジブリパークの開業、2023年に予定している豊島園跡地に建設中のハリー・ポッター体験型施設の開業が控えているなど海外からも注目を集めるスポットが続々と登場しています。
テーマパーク関連の施設は、外国人からの認知も早いため2023年は新しいコンテンツを旅行の目的とした訪日旅行者が増えていくと推測されます。
インバウンド集客のメリット
観光庁が発表している訪日外国人の消費動向によると、2019年の訪日外国人の旅行消費金額は4兆8,135億円となっており、国の経済を支える重要な柱の一つとなっていることがわかります。
これらの金額を達成した背景としては、各事業者がインバウンド集客に取り組み実際にそれらが旅行者から支持されたのが要因です。
それではなぜ各事業者がインバウンドの集客に積極的に取り組んでいるのか、そのメリットについて解説をいたします。
訪日外国人による経済効果が見込める
やはりいちばんのメリットは訪日外国人による経済効果が見込める点にあります。
2019年の調査によると、訪日旅行客一人あたりの旅行中の支出額は15.9万円となっています。
日本人の国内旅行における1回あたりの支出額が約35,000円となっているため約4.5倍の経済効果があることがわかります。
また過去1年間の日本への来訪回数のデータでは、1回が19.8%、2回・3回がそれぞれ10%程度とリピーター率も高く、うまく集客を行えば継続した経済効果も期待できます。
2023年においては、円安の影響により外国人旅行者の消費は更に増えると推測がされています。そのため、旅行消費額の分野でインバウンド市場を見てみると、訪日者数よりも早期の回復が期待できます。
地方活性化につながる
次に、インバウンド集客には地方活性化にも期待がされています。
日本の地方都市には日本人も気がついていない、魅力ある観光資源や文化が多数眠っています。
日本人マーケットを主軸とした観光開発では、人口減少の一途をたどるマーケットにおいて勝ち目はありませんが、海外に目を向けると可能性は無限大です。
地方活性化についてはすでに様々な自治体などで取り組みが開始されており、鳥取県では「蟹取県」をキャッチフレーズに知事自らが海外の旅行博などに足を運びPRを行っています。
その結果として海外市場での認知度が高まり、鳥取空港とベトナムを結ぶチャーター便の運航なども過去には行われています。
SNSによる拡散
インバウンドによる経済効果や地方活性化を行う上で、SNSにより情報拡散は今や欠かすことのできないテーマとなっています。
この点についても、インバウンド誘致のメリットを最大限に活用するために詳しく解説をいたします。
スマートフォンの普及によりSNSは今や我々の生活の中では欠かすことのできない、情報収集ツールの一つとなっています。これは日本人のみならず海外でも同じ傾向が見られ、インバウンドビジネスにおいても重要なツールの一つとなっています。
実際に今まで名の知られていなかった観光地が有名人によって紹介されたことにより、その国ではちょっとしたブームになったといった事例も多数存在します。
SNSをうまく活用し集客をしていくには、その国のユーザーに合ったSNSの選定やマーケティング手法が重要となります。
例えば、中国市場であればWeChat、ベトナム市場であればZaloやFacebook、インドネシア市場であればWhatsAppといったように各国により人気のSNSは異なります。
誤ったSNSツールの選定は、想定しているユーザーにリーチしないなど予算や時間の浪費につながります。また、SNSは長期的視点でのフォロワー獲得などの運用も重要となるため、正しい知識を持って運用を開始することが効率的な業務に繋がります。
インバウンド集客施策(業種別)
ここからは、インバウンド集客に向けて実際に行われている施策を実例を交えてご紹介いたします。
今回は業種別の共通施策、飲食業、観光業、自治体の4つに分けて解説をします。
全業種共通
まず初めに、業種を問わずインバウンドの集客を検討されている事業者の皆様に抑えておいていただきたい施策をご紹介いたします。
Googleマップを活用した集客(MEO対策)
お店の場所や営業時間、現在地からのルートなどが簡単にわかり今や旅行に欠かせないツールとなっているのがGoogleマップです。2021年には約1億600万ダウンロードが行われ、旅行系アプリの中ではNo1の利用者数となっています。
このGoogleマップ上に掲載される、お店の情報は自分が運営する店舗であれば自由に編集する事ができることをご存知でしょうか。
店舗情報を来店する客層に合わせて最適化することを専門用語でMEO(Map Engine Optimization)と呼びます。
営業時間や取扱商品などをMEO対策として掲載することで、実際に店舗へ訪れるユーザー数の増加が見込めるだけでなく、口コミ機能による波及効果も期待できます。
またこれらの有用なツールがすべて無料で利用できるのもGoogleマップを活用した集客をおすすめするポイントの一つです。
まだ活用を始めていない事業者の方は、本日からでも利用ができるため管理申請をすることをおすすめさせていただきます。
Free Wi-Fiの設置
日本へ訪れる外国人観光客が抱える多くの悩みが、通信環境の悪さにあります。旅の必需品になっている、スマートフォンも回線契約をもたない外国人であれば使用することができません。
諸外国ではインバウンド需要を見据え、商業施設や飲食店などでのFree Wi-Fiの設置が進み、旅行者でも快適な通信環境を利用する事ができるよう整備が進んでいます。
例えば、発展途上国と思われているベトナムにおいては個人が運営するような小さなカフェやレストランでもFree Wi-Fiの設置は一般的となっており、設置をしていないお店を探すほうが難しい状況となっています。
一方日本では携帯電話の普及率の高さもあってか、Free Wi-Fiの設置に関しては消極的となっています。
先にご紹介をした、SNS等を利用した口コミによる波及効果なども活用していきたいと考えている事業者の方は、Free Wi-Fiの設置を行い通信環境を整備することも念頭においてください。
飲食業
次は、飲食業におけるインバウンド集客施策をご紹介します。
ハラル料理対応のメニューを提供
インバウンドの集客をするのであれば、その国の宗教や文化に合わせたメニュー構成も重要となってきます。
例えばイスラム教徒のハラル料理のように、「豚肉」を利用したメニューを食べてはいけないなどの細かい規定が設けられています。
食に関するルールについては、アレルギー対応同様に細心の注意を払った提供が求められます。
受け入れがスムーズにできるようになるためには時間や準備が必要ですが、うまく取り入れることでライバルも少ないため集客アップを見込むことができます。
タブレットを利用した多言語メニュー表の展開・接客の自動化
様々な国の外国人観光客へ均一なサービスを提供するには、タブレットを利用したメニューの多言語化と注文の自動化がおすすめです。
タブレットを活用することで、従業員に対して言語や接客の教育をする必要がなく教育コストの削減や生産性の向上にも繋がります。
また外国人旅行者にとっても、注文前にメニューを写真で確認することできるなど双方にとってメリットのある施策となっています。
観光業
次は、観光業におけるインバウンド集客施策をご紹介します。
グローバルOTAを活用した集客
観光業を営む方で、海外からの集客を増やしたいのであればグローバルOTAの活用がおすすめです。
グローバルOTAの多くが分野特化型のシンプルなサイト構成をしており、一つのサイトに商品を登録すれば様々な国の人に販売をすることのできる機能を保有しています。
販売機会が増えるだけではなく、在庫管理などを一括して行うことができるのも特徴の一つです。
例えばアクティビティーを販売するのであればKlook (クルック)やKKday (ケイケイデイ)、ホテルを販売するのであればAgodaやブッキング・ドットコムがグローバルOTAとして挙げられます。
自治体
最後に、自治体におけるインバウンド集客施策をご紹介します。
海外の旅行博で地元の魅力をPR
自治体が行うインバウンド集客の代表的な施策とも言えるのが、海外で実施される旅行博への出店です。
タイのバンコクで開かれるアジア最大級の国際旅行フェア「TITF」やベトナム・ホーチミンで毎年開かれているジャパンベトナムフェスティバルなどには毎年多くの自治体が参加をしています。
これらの旅行博への出店は短期間で多くの人にその自治体の魅力を伝えることができるため、地方都市への誘客にも絶大な効果を発揮しています。
また訪日旅行に興味のあるユーザーだけが訪れるイベントのため、効果的な宣伝のできる場所ともなっています。
インバウンド観光の課題
最後に、インバウンド観光が抱える課題について解説をいたします。
ここまでご紹介をしてきたようにインバウンド集客には、大きな経済波及効果や地域活性化といったメリットがある一方で表には現れにくい課題も抱えています。
最も典型的なものとしては、環境への悪影響が挙げられます。実際に日本国内でも増えすぎた観光客により、生態系の破壊やゴミの不法投棄が起こりすでに影響が出始めている地域も出てきています。
また観光客が増えることにより、騒音が発生し地域住民から苦情が出るといったケースも見受けられます。
これらの課題に関しては一事業者単体で解決できる問題でないことが多いため、行政や地域住民が一体となった対策が今後ますます求められることになっていきます。
BEENOS Travelでは、インバウンド集客のノウハウの他に地方自治体などと協力をした課題解決などもサポートさせていただきます。
BEENOS Travel代表取締役社長。台湾最大級のインバウンドメディア「トラベルバー」の事業責任者を務める。デプスインタビューやアンケートを活用して収集した豊富な情報を基に、最新かつ詳細な台湾情報を世界に発信している。自治体、宿泊事業者、商業施設、飲食店と台湾インバウンド関連の業務を行い、台湾の魅力を広く紹介する活動に従事している。