訪日インバウンドは新型コロナ感染症流行時の落ち込みから回復傾向にありますが、インバウンドの多くが、東京や大阪の大都市圏に集中することから、地方に効果が及ばないことが問題とされています。本記事では観光庁の補助金事業である「地域観光新発見事業」を紹介します。訪日インバウンド施策についての問題点にも触れていきますので、地方にインバウンド誘客を行おうと考えている事業者は、ぜひ参考にしてください。
インバウンド拡大へ地方分散、観光資源の開拓が急務
訪日インバウンドは大都市に集中しており、地方分散が急務となっています。本章ではインバウンドの地方分散に関して、以下の内容に沿って紹介します。
- 観光の現状について
- 観光立国推進基本計画の事業予算
それでは順にみていきましょう。
観光の現状について
新型コロナ感染症による観光需要の落ち込みは徐々に回復の兆しを見せつつありますが、インバウンドは都市部に遍在する傾向が続いています。観光庁のデータによると、東京の宿泊がインバウンド全体の4割弱を占め、京都、大阪までを含めると6割を超えています。インバウンドは経済効果が大きいため、都市部への偏りを解消するために、地方へ誘客できるかが課題とされています。
地方への誘客を拡大するには、全国津々浦々に眠る地域の観光資源の力が必要となります。2024年度は、地域観光新発見事業を通じて、地方の観光資源を掘り起こし、観光コンテンツの磨き上げに取り組む必要があります。
観光立国推進基本計画の事業予算
2023年3月に施工された第4次「観光立国推進基本計画」は以下の3本柱が重要な戦略として挙げられています。
- 持続可能な観光地域づくり戦略
- インバウンド回復戦略
- 国内交流拡大戦略
数値目標としては、インバウンド1人当たりの旅行消費額を20万円、総額で5兆円の旅行消費額の目標を掲げていましたが、2023年は旅行消費額が5.3兆円となり、インバウンド1人当たりの旅行消費額とも既に達成したことになります。
観光立国推進基本計画では、特に旅行消費額の拡大及び地方誘客の促進戦略が示されています。従来の数を求める観光政策から、旅行消費額を稼ぐ観光に大きく変容したことがわかるでしょう。一方で、インバウンド者数が回復傾向にあるなかで、オーバーツーリズムの問題が同時進行で浮き彫りとなっています。
地方では、インバウンドを誘客するにも、インバウンド消費を押し上げるものや、観光コンテンツが少ないというのが現状です。本事業を活用しながら、従来の観光コンテンツを磨き上げて、高単価でお金が落ちる仕組みを作ることが重要となるでしょう。
地方自治体のインバウンド誘客における課題
観光立国推進基本計画では、地方へのインバウンド誘客が課題として挙げられていますが、現状は東京や大阪などの大都市圏に集中してしまい、地方に恩恵が及びにくい傾向があります。本章では、地方自治体のインバウンド誘客における課題として、以下の内容に沿って紹介します。
- 公共交通機関
- インフラ環境
- 多言語対応
インバウンド地方誘客に向けた課題と解決方法について紹介しますので、参考にしてください。
公共交通機関
インバウンド観光客にとって、公共交通機関の利便性は重要なポイントです。多くの自治体で、駅やバス停の案内表示が日本語のみであり、インバウンド観光客が目的地に容易にたどり着けない状況があります。
電車やバスの時刻表、運賃情報が外国語で提供されていないことも問題のひとつです。とくに初めて日本を訪問する観光客は不便を感じやすく、観光体験の質が低下します。地方の公共交通機関は都市部に比べて本数が少なく、不便な場合が多い傾向があります。
課題の解決のためには、多言語対応の案内表示の拡充、外国語によるアプリやウェブサイトでの情報提供、地方自治体においては公共交通機関の利便性向上が求められます。地方自治体が現状抱える問題とどう向き合うかは、インバウンド観光の成功に直結する重要な要素となっています。
インフラ環境
インバウンド観光の拡大には、インターネットの利用環境整備とキャッシュレス決済環境の整備が不可欠です。インバウンド観光客にとっては、無料Wi-Fiの提供は情報収集やコミュニケーションの必須要素となっています。地方では、Wi-Fi環境の整備が遅れている場所も多いので、観光客は不便に感じることがあります。
キャッシュレス決済の普及は、若年層のインバウンド観光客にとっては重要な課題です。日本国内では現金が主流ですが、海外ではクレジットカードやデジタル決済が一般的であり、ギャップを埋める必要があります。
自治体は、公共スペースや観光施設での無料Wi-Fiエリアの拡大、店舗やサービス業での多様なキャッシュレス決済オプションの導入を進めるなど、インフラ整備が必要となります。インフラ整備は、インバウンド観光客にとっての利便性を高め、地域の魅力を向上させることにつながるでしょう。
多言語対応
インバウンド観光における多言語対応は、インバウンド観光客の満足度を大きく左右する要素です。多くの自治体では、案内看板、パンフレット、ウェブサイトなどの情報提供が日本語中心であり、英語やほかの言語での情報が不足しています。
言語の壁は、インバウンド観光客にとって大きな不便を生じさせ、観光体験の質を低下させる可能性があります。自然災害時など、緊急時の情報提供や医療機関での対応など、安全にかかわる情報の多言語化は急務です。
自治体は、観光情報の多言語化や多言語対応のスタッフ配置、翻訳アプリ、音声翻訳機器の導入など、インバウンド観光客が安心して旅行できる環境を整備することが重要です。文化的背景や習慣の違いを理解し、対応するための教育も不可欠です。多言語化などの取り組みにより、インバウンド観光客が快適に滞在し、地域の文化や魅力を深く理解できるようになります。
課題解決のために何が必要か
地方にインバウンド観光客を誘客するための課題について紹介しましたが、本章では、課題解決のために必要となることについて紹介します。
- DMOの強化
- デジタル化の推進
- 産官学の連携によるインバウンド人材の育成
課題を解決することで、地方にインバウンドを誘客できるでしょう。それでは順に紹介します。
DMOの強化
地域のプロモーションにおいてDMOに求められる重要な役割のひとつが、「一貫したテーマ」を打ち出し、地域のブランディングを行うことです。地域固有の魅力をテーマとして明文化することで、ターゲットも明確化でき、各事業者との意思疎通もスムーズになります。
インバウンド向けのプロモーションにおいては、外国人目線を取り入れることも重要です。PRコンテンツ作成に、外国人クリエイターを起用することも有効です。
デジタル化の推進
多言語対応といった課題も、テクノロジーと絡めながら解決していく必要があると考えられます。翻訳ソフトなどを活用する以外にも、施設の利用方法などを動画やスライドを使って案内することも有効です。
多言語対応で進める必要があるのが、ハード面の整備です。フリーWi-Fiなど通信の整備が進まないことには、デジタル化も満足には進みません。通信面のインフラは、今後重要性を増していくでしょう。
産官学の連携によるインバウンド人材の育成
各地域に専門性を持ったインバウンドの人材を行き渡らせるためには、政府と事業者のみならず、教育機関との連携も必要です。大学では、経営関連の学問療育を強化することが期待されます。今後到来するであろうDXの大きな波に備え、IT関連の専門家をインバウンド業界に取り組んでいくことも重要だと考えられます。
2024年観光庁「地域観光新発見事業」とは
地方にインバウンドを誘客するためには、課題がありますが、解決するために方法があることを紹介しました。しかし、課題解決には多額の費用が必要となります。本章では、2024年に観光庁が開始した「地域観光新発見事業」について以下の内容に沿って紹介します。
- 地域観光新発見事業補助金とは
- 地域観光新発見事業の補助額と補助経費
- 地域観光新発見事業の対象となる経費
- 地域観光新発見事業のスケジュール
- 地域観光新発見事業採択のポイント
それでは順に紹介します。
地域観光新発見事業補助金とは
地域観光新発見事業支援は観光庁が主体となる事業であり、インバウンド・国内旅行者両方の地方誘客を推進するための施策です。マーケティングデータを活用しながら地域の多様な観光コンテンツを造成するとともに、販路開拓や情報発信を支援するものです。
対象事業者は地方公共団体やDMO、民間事業者と幅広く設定されています。地域観光新発見事業補助金には以下の2つの類型が設定されています。
- 類型1:「新創出型」新たに観光コンテンツを造成し、本事業終了後に販売開始することを見据えた取り組み
- 類型2:「販売型」すでに造成されている観光コンテンツを本事業実施期間内に販売することを前提にした取り組み
地域観光新発見事業の補助額と補助経費
地方観光新発見事業の補助金の額は最低400万円です。使われた事業費のうち400万円までは低額で補助され、400万円を超えた部分は1/2の金額が補助されます。補助上限は1,250万円です。補助金を受けるための最低事業費が600万円のため、限りなく負担を減らすためには、100万円の自己負担で600万円分の事業ができることになります。
地域観光新発見事業の対象となる経費
対象の経費は以下の3つになります。
①観光資源を活用した観光コンテンツの造成にかかる経費、観光コンテンツ自体を作るための経費であり、企画開発やモニターツアーの費用も含まれます。
②備品の購入・設備の導入にかかる費用
コンテンツ造成に必要とされる備品や設備などの経費です。
③販路基盤整理・プロモーションにかかる経費
コンテンツをPRするためのWEBサイト制作や写真・動画の撮影費用、インフルエンサーを招聘してのPR費用などが含まれます。
地域観光新発見事業のスケジュール
地域観光新発見事業は2024年3月8日に公募が開始され、4月14日に1次公募の受付が終了します。2次公募の可能性がありますが、予算がなくなり次第終了となるため1次公募に応募することをお勧めします。5月下旬に採択通知がきて、6月下旬から7月上旬に交付が決定する予定です。事業実施期間を経て、来年2月下旬には完了実績報告、積算書類提出を行う必要があります。3月以降には補助金の支払いが行われる予定です。
地域観光新発見事業採択のポイント
応募された事業は以下の5つの観点から審査が行われ、採択の可否が決まります。
- 持続可能な観光地域づくりに寄与していること
- 独自性、新規性があること
- 具体性、計画性があること
- 実施体制持続性があること
- 収益性があること
本事業の前身といえる令和5年度「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」では、地方の事業がまんべんなく採択されており、地方のインバウンド事業が重視されていることがわかります。
「地域観光新発見事業」の注意点とは
最後に紹介するのは、「地域観光新発見事業」の注意点です。以下の内容に沿って紹介します。
- 認められない経費
- 「新創出型」は造成経費を50%超に
それでは順に紹介します。
認められない経費がある
認められない経費は以下の通りです。
- 本事業に直接関係のない経費
- 交付決定前に発生した経費
- 事業者における経常的な経費(運営にかかる人件費や旅費、事業所等に係る家賃、保証金、敷金、仲介手数料、光熱水費・通信料等)
- 旅行者が受益する景品の購入や割引にかかる経費
- 実施主体の会食費
- 弁当代等の飲食費
- 本事業における資金調達に必要となった利子
- モニターツアー参加者の実施場所への旅費等
観光コンテンツの造成と販売に必要な費用以外は対象外と覚えておきましょう。
「新創出型」は造成経費を50%超に
新たに観光コンテンツを造成することが求められる「新創出型」においては、造成経費にあたる経費の割合が全体の50%を超える必要があります。PR動画の制作費や広告費をかける前に、質の良い観光コンテンツを作ることにフォーカスしてほしいという意図であると推察します。
まとめ
インバウンドを地方へ誘客するには、まだまだ課題が多く存在します。課題解決に向けた方法はありますが、費用が掛かります。「地域観光新発見事業」では、インバウンドを地方へ誘客するうえで必要となる経費を補助する補助金を交付しています。地方でインバウンド誘客に向けた取り組みを行う事業者は、補助金の活用を検討しましょう。
BEENOS Travel代表取締役社長。台湾最大級のインバウンドメディア「トラベルバー」の事業責任者を務める。デプスインタビューやアンケートを活用して収集した豊富な情報を基に、最新かつ詳細な台湾情報を世界に発信している。自治体、宿泊事業者、商業施設、飲食店と台湾インバウンド関連の業務を行い、台湾の魅力を広く紹介する活動に従事している。